大判例

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東京高等裁判所 昭和55年(ラ)400号 決定 1980年10月20日

抗告人

株式会社小金井建設代位権者

坂倉昌宏

右代理人

田中繁男

主文

本件抗告を棄却する。

理由

抗告代理人は、「原決定を取り消す。本件不動産について競売手続を開始する。」との裁判を求め、抗告理由として主張するところは、別紙抗告状の「抗告の理由」に記載のとおりである。

そこで考えるに、債権者小金井農業協同組合(以下債権者組合という)の債務者山内正名に対する債権(貸付日昭和四九年一〇月一九日、貸付元本八〇〇〇万円)については、東京法務局田無出張所昭和四九年一〇月二一日受付第四四六〇九号をもつて山内正名所有の小平市天神町一丁目二二九番三一宅地139.19平方メートル(以下甲物件という)、同番地三一居宅木造亜鉛メッキ鋼板葺二階建一階63.68平方メートル二階30.53平方メートル(以下乙物件という)について抵当権(共同抵当)設定登記がなされ、ついで、右の同一債権を被担保債権として東京法務局府中出張所昭和五〇年一月一八日受付第一三四四号をもつて株式会社小金井建設が所有権移転仮登記を有する国立市西二丁目二五番六宅地144.65平方メートル(以下丙物件という)、株式会社小金井建設所有の同番地の六居宅木造セメント瓦葺平家建48.76平方メートル(以下丁物件という)について抵当権(共同抵当)設定登記(株式会社小金井建設は物上保証人)がなされ、債権者組合は丙丁物件についての右抵当権を先ず実行する申立をし、この抵当権に基づく競売手続において債権者組合は競売代金中から一四四六万五〇〇〇円の弁済を受けたこと、その結果株式会社小金井建設は主債務者山内正名に対し同額の求償債権を有するに至つたこと、坂倉昌宏は株式会社小金井建設に対し債権元本五〇〇万円等の債権を有し、この債権を被担保債権として丙丁物件につき債権者組合におくれる抵当権を有していたこと、株式会社小金井建設が現在資産を有せず、前記求償債権が唯一の資産であること、株式会社小金井建設の代表者は山内正名である関係から、株式会社小金井建設が山内正名に対して右求償債権の取立及び株式会社小金井建設に移転した抵当権の実行の申立等の権利行使をしないであろうことは、本件記録によつて認めることができる。

右認定事実に徴すれば、坂倉昌宏は株式会社小金井建設の代位権者として同会社に移転した抵当権の実行の申立をすることができるが如くである。しかし、同会社が債権者組合に対してしたことになつた弁済は、債権者組合が山内正名に対して有する元本八〇〇〇万円の債権の一部について代位弁済がされたものであり、このように債権の一部につき代位弁済がされたときは、代位者である株式会社小金井建設は債権者組合の山内正名に対して有する甲乙物件の担保権行使に附随し共同してのみ担保権行使をすることを認めるべきであり、債権者組合の担保権行使と別個に独立して担保権行使をすることは許されないと解すべきである。なんとなれば、一部弁済の場合には、もともと債権者組合が残存債権に対して有する権利を害することをえないものと解すべきであるからである(当裁判所は、大審院昭和六年四月七日決定、民集一〇巻九号五三五頁の見解は以上に述べた理由により採用しない。)。民法五〇二条一項にいう「債権者ト共ニ」は右の意味であると解すべきである。そうすれば、坂倉昌宏が株式会社小金井建設の代位権者として同会社に移転した抵当権に基づいてした競売の申立は理由がないから、これを棄却すべきであり、これと同旨に出た原決定は正当であり、本件抗告は理由がない。その他、記録を精査するも原決定を取り消すべき事由を見出すことができない。

よつて、本件抗告を棄却することとし、主文のとおり決定する。

(渡辺忠之 鈴木重信 渡辺剛男)

<参考・抗告の理由<抄>>

原決定は、申立人には、その申立に係る抵当権実行の要件が具備されているとは認められないと判断した。然し、この判断には法律の解釈適用の誤り及び判例違反がある。

一、抗告人(債権者)は、取得した本件抵当権を単独に実行できる。

抗告人は、申請外小金井市農業協同組合(以下小金井市農協)から国立の物件について抵当権を実行され、その所有権を失い、被物上保証人たる相手方(債務者)に対し金一、四四六万五、〇〇〇円(土地の競売の際の鑑定評価額)の求償権を取得する(民法三七二条、三五一条)。そして、右競売による配当金は小金井市農協の債権額の一部に過ぎないことから抗告人は、一部代位弁済者として、小金井市農協が相手方に対し同人所有の小平の物件につき有する本件順位一番の抵当権を右求償権の範囲において単独に実行し、右小金井市農協と平等の地位に立つのである(民法五〇二条一項)。判例も債権者の意思に関せず抵当権を実行しうることを認めている(大判昭和六年四月七日民集一〇巻五三五頁)。

この点に関し、解釈論として「共にその権利を行う」とは債権者に追随し、債権者の行使する場合にのみこれと共に行使しうる趣旨と解し、その効力は債権者の有する担保物件の不可分性を害しえず、即ち、それに優先せられるものと解する説もあるが、立法論としてはともかく解釈論としては無理である。

二、抗告人は、取得した抵当権につき未登記であるが競売の申立はできる。

未登記の抵当権でも抵当権の実行として競売の申立をすることができるとするのが判例、学説の立場である。登記は第三者に対する対抗要件たるに過ぎず、当事者間では対抗の問題を生じないからである。ことに本件の場合は、小金井市農協のために登記がなされて居り、その後、抗告人が一部弁済したことによつて右の登記抵当権の一部を取得した例である。この場合、抗告人が登記するとすれば代位による移転の付記の仮登記しかできないのが代位について本登記までなしうるのかは議論があるにしても(法律学全集不動産登記法新版幾代通二七五頁、二七六頁)、抵当権の設定契約のみで目的物件に競売の申立をするのとは違う。

形式上も競売法二二条一項の規定は、抵当権の競売の申立につき抵当権設定登記のあることを要件としていない。

三、抗告人に対する債権者、即ち、代位権者坂倉昌宏は、自己の債権の満足を得るため本件申立をする必要性がある。

抗告人は、現在これという資産を持つて居らず営業活動もしていない。相手方(債権者兼所有者)に対する求償債権(本件抵当権付)が唯一の資産である。

抗告人の代表者は、相手方である。この特殊の関係から抗告人が相手方に対して右求償債権の取立ないし本件競売の申立をすることは望めない。

四、代位権者は、本件抵当権につき優先する。

代位権者は、国立の物件につき小金井市農協との関係で後順位抵当権者であるから本件抵当権につき右農協と平等の地位で優先弁済を受けることができる(判例時報九〇七号五五頁以下、第三小法廷判決)。

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